あめの日散歩ブログ

同人誌の感想を書いていくかもしれないブログ

東方キャラ子供の頃合同 魅力的なテーマを扱った合同誌

 海苔缶さんが企画した東方子供の頃合同あの頃の私に参加させて頂いたので、せっかくならそれの感想を書こうと思う。

 数が多いだけに一つ一つの感想は短くなってしまうが許して欲しい。感想を書くのは難しく、大変なエネルギーと時間を使うのだ。

 それと今回は参加者に対しての感想というつもりで書いているのでネタバレを含んでいる。まだ読んでいない人は、今すぐ読んでから来い

 ではさっそくやっていくぞ。

 

(敬称略)

 

 追憶の魔女 海苔缶

 パチュリーが子供の頃に書いた日記を読み返し、自分でツッコミを入れているのが面白い。日記なのに書かれている内容が一言で、妙に淡白なのもクスリとさせられる。「お金がない」や「色々と面倒くさい」という一文に関しては、これ以上ないほど端的に全てを表しているので笑ってしまう。

 小悪魔が変態思考でパチュリーはだいぶ手を焼いているのだろうと伝わってくるが、なんだかんだでそんな小悪魔に好意を抱いているパチュリーはやはりいい。主従関係が良好なものはほっこりする。

 

 

 イラスト なまうに

 子供らしさがとてもうまく表現されていて可愛らしい。幼少期の早苗の純粋さが伝わってくる。

 

 

 ビッグキャンドル あめの

 私の作品。色々と粗はあるが、粗をなくすのではなく単純な面白さを追求しようと思って執筆した。読んでもらった人には高評価を頂いているので、うまくいったのではないかと思っている。最近オチでストンと落とすやり方に凝っているが、この作品のオチは自分でも気に入っている。

 

 

 気が合うかもしれない 仲村アペンド

 椛が文を苦手としているというルーツを、子供時代の経験と結びつけているのがとてもいいやり方だと感じた。なにげにその話を引き出しているのがはたてであるのもポイントが高い。天狗社会の文化や掟に触れつつも、椛と文の関係性に焦点を当てた話として、手堅くまとまっている印象。

 酒に酔って口が軽くなってしまった椛を想像すると可愛らしい。

 

 

 イラスト TaoMao

 絵本のようなイラスト。文章もついているのでそのまま絵本と言えるかもしれない。素朴なタッチがいい味を出している。

 

 

 ミレニアムカプセル 南条

 この人の書く話はかなり癖があるのだが、この合同においても相当に異質を放っている。藍が埋めたタイムカプセルを橙と一緒に掘り起こすという話なのだが、なぜかそんなほのぼのイベントであるにも関わらず、妙に殺伐としているのである。次の瞬間にも橙が藍の首を取ってもおかしくないと思わせる雰囲気がある。なのに、最後はなんだかいい話として纏まっているのが腹が立つ。

 こういうテイストはなかなかお目にかかれないので合同などでは他の作品と区別化できて貴重なのではないだろうか。

 殺伐としている以外にも、色々とツッコミどころが満載なので笑える話となっていて実に面白い。

 

 

 晩御飯前のほんの些細な出来事 ばかのひ

 この人もなかなか独特の世界観を持っている人で、基本的にはゆる~い世界なのだが時たまキャラがどうしようもなく毒のあるセリフを吐いたり、メタ的な視点から物事を言ったりするのが絶妙な面白さを生み出している。

 今回は地霊殿の話で、珍しくも地霊殿で一番のしっかりものとして描かれているのがこいしだったのが新鮮。また百パーセント自分が悪いと理解しつつ理不尽に怒るお空や、タンスの中から出て来るお燐だったり、ベッドの下から這い出すさとりだったり、可愛さと可笑しさが感じられてとても良かった。

 

 

 御神酒 桝本つたな

 一行読んだ時点でうまいと感じた。

 個人的に文章のうまさというのは情報掲示のやり方が大事だと思っている。もっと単純に言ってしまえばカメラワーク。

 この作者さんはものすごくそれを意識して書かれているというのを感じる。とにかく最初から最後まで尋常じゃないほど文章の流れが整理されていて、すごく読みやすい。難しい表現を扱わず、基本的にシンプルに書かれているのも個人的にはとても好みだった。

 

[危険な毒でも口に入れて確かめずにはいられない赤子のように、幻想郷の日常を楽しんでいる。]

 

 霊夢が早苗に対して抱いた印象を表現した文である。特にこの一文はいいなと思った。また、

 

[言霊の理も知らないのに、それこそ赤子のように軽率に、言葉を作っては弄ぶ。]

 

 外の世界が酒を禁止していることに霊夢が思ったことを表現した文章だが、先の文で扱った「赤子」というワードをここでも用いている。こういうのをさらっとやってのける技術力は恐ろしい。

 

 内容について。

 言ってしまえば、この話は、霊夢と早苗がお酒について話し合っている、だけなのだ。

 それだけなのに相当面白い。なんでこんな面白いのか正直わからん。誰か教えて欲しい。論理的これがこうなってこうだから面白いんだよというのを誰か。

 しかしここまで書いてほっぽりだすわけにもいかないので、ちょっとだけ書く。

 

 この話は一貫してお酒について書かれた話だが、以下のような流れがある。

 

 霊夢と早苗がお酒について軽い会話→霊夢の子供の頃の酒の思い出→宗教的な酒についてのやり取り

 

 と、このような流れになっているので、ほとんど霊夢と早苗が会話をしているだけの絵なのだが変化を感じ取ることができるようになっている。また地味に、二人が守谷の分社に移動しているので場所の変化もある。

 物語には変化を加えないと読者はだれてしまうので、こういう風に「酒」という一つのテーマを扱いつつも状況の変化を自然と取り入れられているのが面白さにつながっているのではないかと思う。

 また一つ一つのエピソードがキャラを感じさせるようなものになっており、特に宗教的な酒のやり取りの部分については、東方の世界観も感じさせる内容となっていてすごくそれらしい。物語のたたみ方もとてもうまい。

 セリフや行動といった細かい部分や、物語全体の流れを通して「ああ、霊夢ってこんな感じのキャラだよね」としみじみ感じさせられる。

 

 なんだか感想というよりは批評になってしまったような気もするが、それだけこの作品から感じたものは強かった。いいものを読ませて貰った。未読の人はぜひとも読んで貰いたい。

 

 

 三途の川のタイタニック号 アルトス

 小町が幽霊に三途の川を渡しながら子供時分の話を聞かせるというお話。小町がなぜ船頭をしているのかという理由に触れることができる。

 小町が幼少期から死神として稀有な才能を持っていたという珍しい設定が目を引いた。それだけにもう少しその部分を掘り下げても良かったかもしれない。

 それにしても、小町は幽霊を楽しませようという気持ちがあるのなら、サボりなどせずにもっと真面目に職務をこなして欲しいと思うばかりである。

 

 

 刀の思い マリファー

 幽々子のような主人を持つと苦労しそうである。特に真面目な性格である妖夢ならことさらに。ひたすらに思い悩む妖夢の姿が印象的。

 個人的に幽々子の「抜き身でいると風邪をひいちゃうわよ」というセリフがすごくそれらしくていいなと思った。

 

 イラスト 駄菓子屋

 ルーミアのイラスト。幼い顔立ちと禍々しい雰囲気が合わさって、いい不気味さがある。手に持っているそれ怖いんですけどなんですかそれ。

 

 

 My Precious Maid 渡辺稔

 咲夜の出自というのは非常に謎で、誰しも一回くらいは考えたことがあるのではないだろうか。紅魔館は多国籍軍なので本当に興味深い部分である。

 子供の頃レミリアと共に行く以外の選択肢がなかった咲夜だが、成長した今、もう一度自分の道を選ばせてみようと思うレミリアの姿が印象に残る。

 咲夜のことに対して真剣に考えるレミリアの姿がいいだけに、個人的な願望を言わせてもらうと、一人称でもっと彼女の心理に寄り添った話が読みたかった。

 主従の信頼の強さを感じられる点は大変に良い。やはり二人の関係はこうであってほしい。

 

 

 輝きを私に 東雲まひる

 真っ直ぐな魔理沙が魅力的なお話。

 濃密な描写力が作者さんの武器だろう。場所がどうなっているのか、魔理沙の格好はどうで、何をしようとしているのか、そういう一つ一つの要素をしっかり描写していて、はっきりと状況が伝わってくる。ここまで描きこめるのは素晴らしいと思う。

 最後の魔理沙が流れ星に祈るという行為、それ自体が成長して失ってしまったものを取り戻そうとする表れなのではないだろうかなどと考えたり。

 

 

 汚れなき嫉妬の橋姫 是雲公司

 パルスィの子供時代は、実は純粋でものすごく良い子だったというお話。それがどうして嫉妬に狂ってしまったのか……。

 純粋無垢なパルスィというのは今まで見たことがないので新しくて良かった。

 5000文字という容量ではどうしても描ききれない印象を受けてしまうが、書こうとしているものはしっかりと伝わってきた。

 

 

 五十分の一 小野秋隆

 一言、すごい。

 先程文章では情報掲示のやり方が大事だと述べたが、この人も相当にうまい。書き慣れている印象を直に受ける。とても格好いい文章で、こういうのを書けるのは羨ましい。

 内容についても本当に格好いいし、5000字という容量でここまで描き込めるのは驚愕。

 内容はアリスの二つ名「七色の人形遣い」、そのルーツは一体どこにあるのか、という話である。

 すごいな、と思ったところは、その「七色の人形遣い」という二つ名が一体どういう意味なのか、それをしっかり作者が独自の思考で精巧に作り上げていること。そして、そこからアリスがその二つ名にたどり着くまでの道筋を鮮明に作り上げていること。

 この二点が実に良くできているため、物語の重厚感がものすごい。たった5000字の容量であるはずにも関わらず、もっと長い話を読んだかのような満足感を得られる。

 

 読んでいて思ったのは、やはりエピソードが面白い話は面白い、ということ。

 この話のキーであるアリスの過去の部分。一言でまとめてしまえば「アリスが大事にしていた人形が捨てられてしまう話」である。こう言ってしまえばありきたりに聞こえるかもしれないが、そこに至るまでの過程で、アリスが人形に対してどのような思考を持ち、どのような行動を取ってきたか、尋常ではないほど事細かく描かれている。

 それによって「人形を捨てられてしまう」という一種のイベントが、アリスにとって並々ならぬ意味合いを持つことが良く伝わってくる。そしてそれが二つ名を持つ意味へと繋がっていく。

 だから面白い。

 

 総評として、純粋に読めて良かったと思った作品。作者の実力を感じさせる一作。

 (本当はもう少し感想を述べたかったが、ここまで十作以上書いてきてもう体力がない)

 

 

 イラスト ハルルカ

 子供の藍とお母さんしてる紫のイラスト。愛くるしい藍と、三十代前半シングルマザー夜は水商売に精を出し昼は子育てに奮闘中っぽさを感じる紫様の組み合わせがいい。

 

 

 ある幻想少女たちの宴会懐古談義 Gv.

 宴会の場で、霊夢が過去の出来事を語っていくのに対して、周りにいるキャラたちが茶々を入れるスタイルがなかなか面白い。

 作者が持っている幻想郷ないし霊夢への思いというものが、作品を通して伝わってくる。

 酒はみんなで飲んだほうがいいと霊夢が思っているのがいい。

 

 

 大きな嘘と小さな真実 ルミ海苔

 霊夢魔理沙の同世代の子供が里にはいない。それはなぜなのか、という謎が興味を引く。ホラー的な雰囲気が心地良い。

 実は霊夢はいたずらっ子である、というのはなかなかに可愛らしいのだが、ホラー要素が良かっただけに、そこを突き詰めて書いてみても良かったかもしれない。

 

 

 一寸光陰 キューネン

 詩的な文章で綴られる幻想的な情景が美しい。

 はっきりとしないんだけど、そのぼやけた印象がなんだかとてもいい雰囲気を作り出しているように思う。また、一定のリズムで書かれた文章が妙な味わいを出していると思った。

 この合同では他にないタイプのお話で、こういうのもいいね。

 

 

 イラスト TaoMao

 妖忌、幽々子妖夢の三人のワンシーン。妖忌の頑固さや幽々子の優しさ、まだ幼い妖夢のあどけなさが伝わってくる。三人の関係性がギュッと押し込められた一枚。

 

 

 まとめ

 今回、「子供の頃」というテーマを各人がどのように料理してくるのか非常に楽しみだった。傾向としては、キャラが現在持っている性質のルーツが子供時代にある、という手の話が多かったように思う。後はアイテムを用いて子供の頃を振り返るといったやり方。

 もしかして単純に子供の頃を描いた話って私の作品だけなのでは? ちょっと意外だった。

 合同のいいところは一つのテーマに対して、他の人がどういうアプローチをしてくるか比べることができる点で、この合同では参加者も多く、個人的にとても楽しむことができた。

 このような機会を与えてくださった海苔缶さんには多数の感謝を。

 そういうわけで、今回の記事はここまでにさせていただく。お読みくださりありがとうございました。

 

「う^3"」『鈴仙のアトリエ2 ~夢見る薬とナズーリン~』 内容たっぷり!

 

 

 前回の記事からだいぶ時間が経ってしまったが、また同人誌の感想を書いた。

 あまりひとつに熱を入れて感想を書くと長続きしないと判断したのでもっと気軽にやっていくぞ。

 あと、誰に向けてこのブログを書いているのか未だに定まっていないので、そこら辺はこれから考えていく。

 さて、そんなわけで今回読んだ同人誌はこちら。

 

 タイトル 鈴仙のアトリエ2 ~夢見る薬とナズーリン

 著者 広山氏

 サークル う^3" (うのさんじょう)

 

 2とあるように続き物である。が、一話完結タイプの話なので前作を読んでなくても読める内容となっている。このシリーズはそういう方針なのかもしれない。(全部読んだわけじゃないのでわからないが)

 

 シリーズの概要としては、薬師の師匠である永琳から個人で使用するアトリエを貰った鈴仙が、一人前になるためにやって来るお客さんの要望に応え、奮闘する話である。

 アトリエシリーズの1と2を読んで感じた魅力は、なんといっても鈴仙と普段あまり見ない組み合わせのキャラが一緒になって、問題を供に解決していくことだろう。それと鈴仙が頑張る姿は健気で応援したくなること。

 

 前作では短編集という形を取っていたが、今作アトリエ2ではまるまる一冊使ってナズーリンを中心とした命蓮寺の話を展開している。

 表紙からほのぼのとした内容かなと予想していたが、読んでみるとがっつりとしたシリアスで、すごく丁寧に物語が組み立てられていたのが印象的だった。

 視点はあくまで鈴仙にあるが、この話のメインはナズーリン

 この話でナズーリンはとても感情的な部分を全面に押し出している。普段、冷静で知的なイメージのあるキャラなだけに、そういう一面をしっかり描いているというのはなかなか面白い。寅丸に対する思いの強さを、行動にして表している所は健気で何とも言えない魅力があった。

 

 ナズーリンはもちろん、寅丸など、キャラがそれぞれしっかりとした自己を持ち、それがストーリーを通して見えてくるのはとても良かった。どのキャラも魅力的だったと思う。

 また、後半のミステリのような推理展開にはわくわくとさせられ、色々と考えて書かれているなあと素直に感心した。賢将というナズーリンのキャラを活かしたストーリー作りになっているのは素晴らしい。

 

 個人的に物語の着地点がすごく好み。ハッピーエンドではあるけれど、どこか寂寥感もある。そういう終わり方がとても好きな私としては、この話はなかなか満足のいくものだった。

 シリーズとして、コンセプトを保ちつつ話を作るというのはとても難しいと思うが、それをしっかりとやっているのはさすがだと思う。

 

 この著者さんは例大祭などイベントにはよく参加されていらっしゃるので、鈴仙好きな人は彼の小説を一度手にとってみてはいかがだろうか。

 

 

 という感じで、うまく感想を書けないが今回はこの程度で勘弁して貰いたい。もっと経験を積んで、いい感じになれるようにやっていくぞ。

 

 

「ゆとりデカダンス」『Fragile』 圧倒的ボリュームの幽アリ

 

 ふと思い立って同人誌の感想を書いていこうと思い、こうして人生初のブログを立ち上げた。果たして続けていけるのかは一切不明であるがやっていくぞ。

 さて、記念すべき第一作目として感想を書くものはこちら。

 

 ・サークル「ゆとりデカダンス

 ・著者「夏後冬前」氏。

(名前の読み方として「秋さんですか?」という問い合わせがあったようだが、正しくは「かごとうぜん」である)

 ・作品「Fragile」

 

 

 

 まず夏後氏の小説の魅力として、私は台詞回しを挙げる。

 氏が描くキャラ、彼女達の吐く言葉にとても力があるのだ。セリフというのはそのキャラそのものを表す物であるから、小説において大変に重要な役割を担っている。つまりセリフ自体が面白ければその小説も面白いと言っても過言ではないのだが、夏後氏はこのセリフを書く力が非常に高いように見受けられる。それだけでも大変な魅力であろう。

 

 さて、今作はアリスの視点で物語が語られる。唐突に家にやって来た幽香に、自分の葬式でピアノを弾いてくれないかと頼み込まれる所から始まる。

 あまりに唐突な物言いである。当然アリスは断ろうとするのだが、幽香の巧みな言葉遣いに、結局折れてしまう。

 セリフから読み取れる幽香の性格は、まさに独善的で、自己中心的で、傲慢そのものだが、我々が求める幽香像を体現していると言ってもいい。そう、それでこそ幽香だ! と思わずにはいられない。当然、アリスも圧倒的な物言いの前にやられてしまうわけだが、幽香のそういったワガママ(おもちゃ買ってと泣きわめく子供すらもどん引きするほどの)を押し通す彼女は、昨今の融通の利かない現代社会を生きる我々にとっては羨望そのものであり、そここそが彼女の最大の魅力といって相違ないだろう。

 しかし今作の幽香の魅力はそこだけではない。

 アリスに自分の葬式でピアノを弾いて欲しい、と頼み込んだからには、この物語に出てくる幽香は死の淵に立っている。まさにわずかばかり残った蝋燭の火のように、燃え尽きるのを待つばかりの存在として描かれている。

 普段我々は幽香を絶対的な強者として捉えているが、この話ではそういったイメージとは裏腹に、彼女の弱さが表現されている。やがて訪れる死を絶対的に恐怖し、自分が生きた爪痕を何とかして残してやろうとする幽香の姿が、主人公のアリスとのやり取りを通じてはっきりと描かれているのだ。

 自己の欲求を押し通す強さと死を恐怖する弱さ、その二つを持った幽香だからこそ、この物語はどこか可笑しく、そして物悲しさを讃えたものとなっているように思う。

 

 ここまで幽香について書いてきたが、その他のキャラについても触れよう。

 今作最大の曲者として、ドレミーが挙げられる。夏後氏は他作においてもドレミーを書いておられるが、このキャラを書いている時は大変に筆がのっているのだろうと思わずにはいられない。大変に癖が強く、少々原作からのイメージからもかけ離れてしまうかもしれないが、彼女が放つセリフのパワーは凄まじい。圧倒的な物量で相手を押しつぶしてしまうのではないかというほどのセリフは、まさに必見である。

 今作での彼女も、かな~り癖が強く、彼女が放つ言葉はどれもが刺々しい。圧倒的な語彙でマシンガンのごとくアリスに向かって挑発的な言葉を吐き連ねるが、言葉の選び方が大変に秀逸であり、アリスとのやり取りを見せるシーンはとても読み応えがあるものとなっている。

 

 夏後氏の小説の魅力としてもう一つ挙げるとすれば、地の文だろう。

 私は伊藤計劃を大変に敬愛しているが、氏のそれは私以上である。それは作品を読めば一目瞭然であるように思う。伊藤計劃のナイーブでどこか達観している語り口を、まさにトレースしたかのように自分のものにしているのはさすがである。それだけに、地の文から伝わってくる雰囲気は大変に味わい深いものと仕上がっている。

 

 この物語はアリスによって語られている。アリスの視点から事象が捉えられ、アリスの思考によって物語が展開されていくわけであるが、ナイーブでありながらも達観した語り口は、実に良くマッチしていると思う。

 夏後氏は、この話でアリスを徹底して不完全な存在として描いている。

 他者に関心を持つことができない自分。そうした自分をメタ的な視点から捉えることで、「幽香の身体を心配する自分」は果たして心からそうしようとしているのか、それともそうあろうとしているのか、という悩みをアリスが見せていることからも、不完全さを描こうという試みを伺い見ることができる。また阿求や魔理沙といった存在を、対照的なものとして描くことで、さらにアリスの不完全さの影を濃くしようとしているようにも見受けられる。

 つまりはこのアリスは「人形」なのである。「人形」であるから、その語りには何かが欠けている。アリスの視点を通して「死」について描いているがそこには退廃的な印象はあるものの悲壮感は付きまとっていない。何かが欠けているからである。その欠落を表現するにおいて、この語り口はまさに効果的であったろう。

 

 と、ここまであれこれ語ってきたが、ストーリーについてネタバレにならない程度に感想を述べよう。

 夏後氏本人の口からも聞いたが、この話はつまるところ「幽アリ」である。二段組み、298ページもの大容量をふんだんに使った濃密な幽アリだ。この二人のカップリングが好きな人にとってはまさに垂涎ものの内容となっていることは間違いない。

 またカップリングに特に興味がない人にも、上記した内容から楽しめる部分はあるように思う。

 

 不完全なアリスと、死にかけで弱り切った幽香、この二人が織りなす物語はとても不安定で簡単に崩れてしまいそうな印象すらある。そんなバランスを崩そうと躍起になるのがドレミーの存在であり、彼女はこの物語において非常に重要なキーとなっている。

「自分の葬式でピアノを弾いて欲しい」という幽香。そして幽香の言うとおりにしてはならないと忠告してくるドレミー。そうした選択を迫られるアリスが果たして、どういう道を選び出し、どうなっていくのか……。

 興味がある人は読んでみてはいかがだろうか。

 

 

 

 さて、ここからはネタバレありで感想を書こうと思う。というのも、読み終わってからどうしても気になったことがあるからである。

 普段ならば、同人の感想というのは良い点以外については触れないものである。悪い点を書いたところでメリットは何もないからである。

 しかし、夏後氏とは面識があり、他の方の小説について批評を述べ合った仲であるので、ここは書かせて貰うことにした。

 

 

 率直に読み終わった感想として非常にもったいないと感じた。やりたいことは非常によくわかるのだけど、うまくいっていないという印象だった。

 具体的にこの話で気になった点をあげていこう。

 

 ・幽香が自分の葬式でピアノを弾いて欲しいと言った理由、またオリジナル曲を作って欲しいと言った理由がはっきりとしない。

 ・最後のアリスの「幽香」というセリフにどれだけ意味を持たせられるかがこの話のすべてだが、その部分が不十分であったため、読後の感動が薄い。

 ・弾幕勝負のシーン。小説において戦闘シーンは難しく、戦闘の描写そのものよりも、その戦闘にどういった意味があるのかという点を重要視して描かないと退屈なシーンになってしまう。不十分だった印象。

 ・アリスが他者に自分の領域に入ってくる事を嫌う。そこから幽香との交流によって変わっていくのがこの話の主軸であるが、その変化を描き切れていない。特に、変化前の段階を読者にうまく伝えられていないのがもったいない。

 

 

 この中で特に重要だと思われる二つについて詳しく述べる。

 

 ・幽香がアリスにピアノを弾いて欲しいと頼んだ理由。

 

 この話は「私の葬式でピアノを弾いてくれない」と幽香がアリスに語りかけているシーンから始まる。ここで読者を引っ張っていく要素は三つ。

 

 1自分が死ぬと言っている幽香が果たしてどうなってしまうのか

 2幽香からその話をされたアリスはどうするのか

 3なぜピアノを弾いて欲しいと幽香頼み込んだのか

 

 以上の三つの要素で読者を今後の展開に興味を持たせているわけである。上の二つは当然ながら話の中で描かれているわけだが、問題は三つめ。この部分が作中で言及されていないのである。ピアノを弾いてくれない、と頼んでいるからにはそこにはピアノでなければならない理由があるべきなのだ。そこを書いていないのは大きなマイナスである。

 

 

 ・最後のアリスのセリフ。

 

 アリスのあのセリフこそがこの話の一番重要なワードであるわけである。あそこにどれだけに意味を込められるかが、勝負の決め手となるわけであるが、正直物足りない。

 この話は、他者に踏み込まれるのを嫌うアリスが、幽香という存在にずかずかと自分の領域に踏み込まれつつも、やがてそれを受け入れるようになるという成長を描いている。しかし、受け入れた相手は結局存在が消え去り、自分(アリス)だけしか幽香の存在を覚えていない。その状況に寂寥感を覚える終わり方、なのである。

 が、そもそもアリスの成長する前の段階である、「他者に踏み込まれる事を嫌う」というアリスをうまく描けていないため、幽香を受け入れた後のアリスの成長を実感できないのである。まずそこに問題点の一つめが存在している。

 また、どうしてアリスがそこまで幽香に入れ込むのか。幽香を受け入れるようになったきっかけが必ずあるはずなのだが、その部分をうまく読者に示せていないため、アリスに対して感情移入ができない。アリスは幽香の願いを叶えるために必死になるわけであるが、読者はそんなアリスの様子についていけない。ここに問題点の二つめがある。

 

 纏めると、

 ・アリスの成長を実感できない

 ・幽香に入れ込むアリスに感情移入できない

 この二つが大きな問題点であるように思える。

 

 では、どうするべきか。

 アリスの成長が実感できない。

 この点は、アリスの成長前についてうまく描けていないためである。そこを解消するために、まず序盤を少し変える。

 アリスは幽香の身体を心配してすんなり家にあげてしまっている。その部分を、アリスが幽香を無理やりに押し返すような展開にしてみたらどうだろうか。とにかく序盤では幽香という存在を徹底的に受け入れがたい存在として描くことで、後半の幽香のために必死になるアリスという部分の変化を感じられるように思える。

 

 幽香に入れ込むアリスに感情移入できない。

 こちらは単純に何かしらのエピソードを交えて、幽香を受け入れようと思った心情の変化のきっかけを書いてしまえばいい。それだけでもだいぶ違ってくるはず。

 

 

 以上が私が思ったことである。

 もちろん私の言っていることが絶対に正しいとは限らないし、見当外れなことを言っているかもしれないが、少なくとも今現在の私自身が思ったことであるのは間違いない。

 

 この感想を書くにあたりかなり時間を要したが、本人に見せた所、「ありがたい」と言ってくれたのは良かった。

 大抵の作者は感想が来ないと死んでしまうので、できれば多くの人が感想を書いて欲しいと思う。そういう思いもあり、このブログを立ち上げた部分もある。

 いつまで続けられるかはわからないが、やっていくぞ。